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大阪高等裁判所 昭和31年(ネ)350号 判決 1960年9月30日

控訴人 被告 立江地蔵講

控訴人(附帯被控訴人)・被告 渡辺勤

被控訴人(附帯控訴人)・原告 土井庄治

訴訟代理人 狩野一朗

主文

1  原判決中控訴人立江地蔵講に関する部分を取り消す。

2  被控訴人の控訴人立江地蔵講に対する訴を却下する。

3  原判決中控訴人(附帯被控訴人)渡辺勤に関する部分をこの判決主文第五ないし第七項(第六項は同控訴人に関する部分)のとおり変更する。

4  控訴人(附帯被控訴人)渡辺勤は被控訴人(附帯控訴人)に対し大阪市旭区大宮西之町七丁目八七番地の二宅地西南角標石中心(同所八七番地の一西南角標石中心から東へ七間二分の点)を(イ)点とし、(イ)点から北へ八間三分九厘の点を(ロ)点とし、(ロ)点から東へ四間四分九厘の点を(ハ)点とし、(ハ)点から南へ八間三分九厘の点を(ニ)点とし、(ニ)点から西へ四間五分の(イ)点にいたる、(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(イ)点を順次直線で結んだ線内の宅地三七坪七合三勺(別紙図面のとおり)を、同地上に存在する地蔵堂建坪約一坪、堂宇一基、木造瓦葺平家建集会所建坪五坪二合五勺、その他同地上の工作物を収去して明け渡せ。

5  控訴人渡辺勤は被控訴人に対し昭和二八年一月一日から前項の宅地明渡ずみに至るまで一坪につき一ケ月五〇円の割合による金員を支払え。

6  訴訟費用は第一、二審を通じ、被控訴人と控訴人立江地蔵講との間に生じたものは、被控訴人の負担とし、被控訴人(附帯控訴人)と控訴人(附帯被控訴人)渡辺勤との間に生じたものは、附帯控訴費用とも同控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。

7  この判決は被控訴人(附帯控訴人)が控訴人(附帯被控訴人)渡辺勤に対し四万円の担保を供するときは主文第四項につき、五万円の担保を供するときは主文第五項につき仮に執行することができる。

事実

控訴人ら代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯被控訴人代理人は、「本件附帯控訴を棄却する。附帯控訴人の新訴請求を棄却する。」との判決を求め、被控訴人(附帯控訴人)代理人は、「本件控訴を棄却する。」との判決を求め、請求の趣旨を変更し、「控訴人立江地蔵講及び控訴人(附帯被控訴人)渡辺勤は被控訴人(附帯控訴人)対し主文第四項記載の宅地(以下本件宅地という。)の地上に存在する地蔵堂建坪約一坪、堂宇一基、木造瓦葺平家建集会所建坪五坪二合五勺その他同地上の工作物を収去して右宅地を明け渡し、かつ各自昭和二八年一月一日から本件宅地明渡ずみに至るまで一坪一ケ月五〇円の割合による金員を支払え。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の主張は、

被控訴人(附帯控訴人、以下被控訴人という。)代理人において、

一、控訴人立江地蔵講(以下控訴人講という。)は、立江地蔵尊の祭祀をしこれを信ずる多数の講員により組織され、講員の内から選任される代表者又は管理人を有する講であるが、未だ法人としての登記のないものである。控訴人(附帯被控訴人、以下控訴人という。)渡辺は、昭和二七年暮頃控訴人講の設立発起人となり同講を設立するとともにその代表者に選任されて現在に至り、代表者として控訴人講を管理しており、現に本件収去目的物件の一である集会所については、所轄区役所備付の固定資産課税台帳に「立江地蔵講総代渡辺勤」と記載され、右集会所に対する税金を今日まで引き続き立江地蔵講総代渡辺勤として納付している。右事実によつて明らかなように控訴人渡辺は俗に講元管理人、代表講主といわれるものと同一視されるものであつて、控訴人講の代表資格を有し、控訴人講は代表者の定めのあるものである。仮に控訴人渡辺が控訴人講の正式の代表者でないとしても、控訴人渡辺は民訴法第四七条により控訴人講の総員によりその代表者又は管理人に選定されたものである。

二、本件宅地は、本訴提起当時は大阪市旭区大宮西之町七丁目八七番地宅地九八坪二合八勺の一部であつたが、その後被控訴人は本件宅地の西側六〇坪五合五勺を柴田富蔵に売却し、右八七番地の宅地を同番地の一宅地六〇坪五合五勺と同番地の二の本件宅地三七坪七合三勺に分割し、前者を柴田富蔵に所有権移転登記をし、本件宅地のみを所有することとなつた。

三、控訴人渡辺は、昭和二七年暮頃控訴人講の設立発起人となり、同講を設立すると同時に本件宅地上に地蔵堂建坪約一坪、木造瓦葺平家建集会所建坪五坪二合五勺を建設し、更に本訴の第一審判決後堂宇一基を建設したが、被控訴人は、控訴人らに対し本件宅地を使用させる何らの権原を与えたことなく、控訴人らは不法に右宅地を占有しているのである。

四、被控訴人は、控訴人ら主張の福田某とは面識なく、同人を本件宅地の事務管理人に選任したこともない。仮に福田某が本件宅地を菜園とした事実があつたとしても、被控訴人は同人にその使用を許したことがないから、同人は不法に占有していたのである。従つて、控訴人らが福田某から本件宅地の占有の譲渡を受けたとしても、控訴人らの占有は不法である。

五、被控訴人は、控訴人らが被控訴人に対抗できる権原なく本件宅地を占有しているので、所有権に基き控訴人らに右宅地の明渡を求めるのであるから、本訴請求は当然の権利の行使であつて権利の濫用ではない。

と述べ、

控訴人ら代理人において、

一、控訴人渡辺は、控訴人講の単なる講員であつて、正式の代表者に選任されたことはない。民訴法第四六条によると、法人に非ざる社団又は財団にして代表者又は管理人の定めのあるものはその名において訴え又は訴えられるのであるが、控訴人講には未だ定つた代表者又は管理人はない。

二、仮に控訴人らの右主張が理由ないとしても、控訴人らは不法に本件宅地に占有して地蔵堂を建立したのではない。本件宅地は戦時中爆撃を受け、何人の所有であるのか不明であり、福田某は七年にわたり右宅地を自己の所有物のようにふるまい、義務なくしてこれを管理していたのである。控訴人らは、本件宅地の事務管理人(少くとも準事務管理人)の福田某に立毛料一万五〇〇〇円を支払い賃料一坪一ケ月五〇円の約定で貸借したのである。

三、仮にそうでないとしても、本件が職権で調停に付せられる以前、当事者双方の代理人間において、控訴人らが本件宅地を一坪九〇〇〇円の割合の代金で買い受け、被控訴人は延滞賃料を免除する約定で示談が成立しているから、この点からしても本訴請求は失当である。

四、被控訴人の本訴請求は、民法第一条に定める信義誠実の原則に反するばかりでなく、極端な権利の濫用である。民法第一条は私権は公共の福祉に遵うと規定しているが、この規定は憲法第二九条第二項の精神に基くものであつて、公共の福祉の原則は私権の社会性、公共性を確認したことを意味する。いうまでもなく、近代の個人主義的思想では私権は絶対不可侵的な天賦の自然権であるかのような色彩を帯びていたが、個人が共同生活を営む社会の一員である以上、傍若無人的な反社会的法律行為はようやくその影を没し、私権の本質的反省となり民法上前述の信義誠実理念の確立をみるに至り、この理念から権利濫用の禁止規定が生れたものと考える。被控訴人は、戦争終了後七年間も本件宅地に姿を見せず、一般人に対し右宅地が被控訴人の所有であることを告示する方法もとらず漫然これを放置し、福田某の耕作するに委せていた。当時の政府の方針が、空地を十二分に活用し食糧増産に務むべきであるとするにあつたことは顕著な事実であつた。福田某は、他人のために本件宅地を管理し、前述のようにこれを控訴人講に賃貸したものであるから、管理行為として何ら欠けるところはない。控訴人らは営利の目的のために本件宅地を使用しているのではなく、戦後社会風教が極度に悪化し、青少年の堕落腐敗は言語に絶するものがあつたので、この実情を見るに忍びず、地蔵堂を建立し思想善導、犯罪防止、戦争犠牲者の慰霊を兼ねた処置を講じたまでである。以上の実情にあるにかかわらず、控訴人らにに対し本件宅地の明渡を求める被控訴人の本訴請求は権利の濫用である。

五、本件宅地の相当賃料が被控訴人主張の日以降一坪につき一ケ月五〇円であることは認める。

と述べたほか、原判決の事実記載と同一(但し原判決一枚目裏末行に「別紙第一目録記載の宅地」とあるのを「この判決主文第四項記載の宅地」と、同二枚目表八行目から九行目に「別紙第二目録記載の地蔵堂及び集会所(以下本件建物とする。)」とあるのを「この判決主文第四項記載の地蔵堂及び集会所」と、同二枚目表九行目の「右宅地」から同一一行目の「土地約四十一坪」までを、「本件宅地」と、同二枚目表末行の「本件建物」とあるのを「この判決主文第四項記載の建物及びその他の工作物」とそれぞれ訂正する。)であるから、これを引用する。

当事者双方の証拠の提出援用認否は、被控訴代理人において、甲第二、第三号証を提出し、当審における被控訴人本人尋問の結果を援用し、控訴人ら代理人において、当審証人福田幸市の証言、当審における控訴人渡辺本人尋問の結果を援用し、甲第二、第三号証の成立を認めると述べたほか、原判決の事実記載と同一であるから、これを引用する。

理由

控訴人講が当事者適格を有するかどうかにつき考えるに、甲第三号証は後に説明するとおり控訴人渡辺が控訴人講の代表者又は管理人であることを証明する書面にあたらず、その他民訴法第五八条第五二条に定める証明の書面は存しないばかりでなく、被控訴人は、控訴人講は立江地蔵尊の祭祀をし、これを信仰する多数講員により組織され、代表者又は管理人の定めのある講で、未だ法人としての登記のないものであると主張し、その趣旨は、控訴人講は民訴法第四六条に定める法人に非ざる社団にして代表者又は管理人の定あるものに当るから当事者能力を有するものと主張するものと解せられる。同条に定める法人に非ざる社団とは、いわゆる権利能力のない社団であつて、その構成員である個人とは独立した団体としての存在が認められ、代表者についての定め・総会の運営・財産の管理・その他社団としての継続的組織、運営に関する主要な点が規約によつて確定されていることを要し、法人格は有しないが代表者又は管理人によつて社団としての活動をなし得るものであることを要するものと解すべきである。成立に争のない甲第三号証、当審における控訴人渡辺本人尋問の結果によると、立江地蔵尊は、四国第一九番札所立江寺にある地蔵尊の分身で、昭和一三年頃本件宅地以外の土地に建立されたものであつて、同地蔵尊の信者達が立江地蔵講と称する講をつくり、その世話人が毎年八月二三日と二四日に信者から寄附による供物により地蔵祭を行い、信者は約七〇〇人あつた。立江地蔵尊は戦災を免れたが、その堂宇がなかつたので、昭和二六年か二七年頃信者から寄附された金員や資材により七〇〇〇円か八〇〇〇円の費用で本件宅地上に本件地蔵堂を建てて祭るようになり、本件集会所も昭和二八年頃建設された。しかし、控訴人講では地蔵盆、その他の行事の際世話人が集り話合をする程度で代表者とか会長・副会長を選任したことはなく、現在代表者又は管理人はない。控訴人渡辺は、右集会所の建築直後これを立江地蔵講講元渡辺勤名義で大阪市旭区役所に届け出て、同所備付の家屋補充課税台帳の所有者氏名欄に「立江地蔵講講元渡辺勤」と登載され(甲第三号証)、固定資産税を控訴人渡辺名義で支払つている。毎月あがる三〇〇〇円か四〇〇〇円のさい銭も控訴人渡辺名義で銀行に預けられ、その通帳は控訴人渡辺以外の世話人が保管しているが、その印鑑は同控訴人が保管している。右地蔵尊の信者は特定しているわけでなく、地蔵盆には世話人らがお供物をもらいに三〇〇〇軒位廻り、品物や現金で八万円位集めるが、前記さい銭とともに地蔵盆の際全部使用し、なお不足するので不足分は控訴人渡辺やその他の世話人が負担しており、右会計報告は世話人にするだけで、一般信者にはしておらず、決算書なども作成されていない。以上の事実を認めることができる。しかし、本件にあらわれたすべての証拠によつても、控訴人講の講員の範囲・その資格の得喪・講の組織・代表者についての定め・総会の運営・財産の管理・その他社団としての継続的な組織・運営に関する重要な点が講規約によつて定められていること及び現在代表者又は管理人が定められていることを認めることはできない。被控訴人は控訴人渡辺は本件収去を求める目的物件の一である集会所につき区役所の固定資産税課税台帳に「立江地蔵講総代渡辺勤」と登載され、立江地蔵講総代渡辺勤として固定資産税を納付しており、この事実から控訴人渡辺が控訴人講の代表者であり、控訴人講は代表者の定めがある旨主張し、右集会所に対する大阪市旭区役所備付の補充課税台帳の所有者氏名欄に「立江地蔵講講元渡辺勤」と登載され、控訴人渡辺が右集会所の建設以来その固定資産税を納付して来たことは、既に認定したところにより明らかであるが、この事実のみによつて、控訴人渡辺が控訴人講の代表者であり、控訴人講が法人に非ざる社団であつて代表者の定めのあるものと認めなければならぬものではない。被控訴人は、控訴人渡辺は控訴人講の講員により民訴法第四七条によりその代表者又は管理人に選定されたと主張するが、同条は当事者が自ら訴訟にあたる者を選定する場合に関する規定であつて代表者又は管理人の選任に関する規定ではないから、右主張は採用できない。そうすると、控訴人講は、立江地蔵尊の信者の集りにすぎず、未だいわゆる権利能力のない社団としての構成要件を具備しないものであつて、民訴法第四六条にいわゆる法人に非ざる社団にして代表者又は管理人の定めのあるものに該当しないものと認めるべきであるから、当事者適格を有しないものといわなければならない。従つて、被控訴人の控訴人講に対する本訴は不適法として却下されるべきである。

控訴人渡辺に対する請求につき考える。成立に争のない甲第一、二号証、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果によると、被控訴人は、大阪市旭区大宮西之町七丁目八七番地宅地九八坪二合八勺を所有していたが、その西寄りの部分六〇坪五合五勺を柴田富蔵に売却したため、昭和三二年七月一二日右宅地を同所八七番地の一宅地六〇坪五合五勺と本件宅地とに分割し、右八七番の一の宅地を柴田富蔵に所有権移転登記を経由し、本件宅地のみを所有するようになつたことを認めることができる。

控訴人渡辺が、本件宅地上に被控訴人主張の地蔵堂、集会所を建設して右宅地を占有していることは当事者間に争がない。右争のない事実と前掲の甲第三号証、当審における控訴人渡辺本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すると、前示のとおり立江地蔵尊の信者により立江地蔵講が作られ、控訴人渡辺は右地蔵尊の信者であり古くから右講の世話人として一切同講の世話をしていた。立江地蔵尊は昭和一三年頃本件宅地以外に建立されて祭られていたものであるが、控訴人渡辺は、昭和二六年か二七年頃右信者からの寄附による金員や資材により本件宅地上に本件地蔵堂を建立し、右地蔵尊を祭るために右宅地の使用を始め、昭和二八年頃本件集会所を建築してこれを立江地蔵講講元渡辺勤名義で区役所に届け出て固定資産税や電灯料・水道料を控訴人渡辺名義で支払つて来た。控訴人渡辺は、第一審判決のあつた昭和三一年三月一〇日以後本件宅地上に成田不動尊を祭る二尺五寸角位の堂宇を建て、以上の各建物を管理占有し、本件宅地を占有していることを認めることができる。右事実によると、控訴人渡辺は、右各建物を自分個人のため所有しかつ管理占有するものではないが、右地蔵講の講員の信託により控訴人渡辺名義で所有し又は管理占有し、本件宅地を占有していることが明らかである。

控訴人渡辺は、本件宅地の占有を始めるに当り、右宅地の事務管理人(少くとも準事務管理人)福田某に立毛料一万五〇〇〇円を支払い、賃料一坪につき一ケ月五〇円の約定で賃借したのであるから、右賃借権を被控訴人に対抗できる旨主張するが、福田幸市(当審証人福田幸市の証言によると、福田某とは福田幸市のことであることが明らかである。)が本件宅地の管理人であり又は被控訴人から右土地を賃貸する権限を与えられていたこと及び控訴人渡辺が福田幸市からその主張の約定で右宅地を賃借したことを認めるに足る証拠はなく、かえつて、当審証人福田幸市の証言、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果、当審における控訴人渡辺本人尋問の結果によると、被控訴人は、以前本件宅地上に家屋を所有していたが、戦災により右家屋が焼失したので、右宅地をそのまま放置しておいた。福田幸市は、昭和二〇年九月頃から食糧を確保するため、被控訴人の承諾を受けることなく戦災跡の荒地であつた本件宅地を耕し、家庭菜園として利用しこれを占有していた。控訴人渡辺は、昭和二六年か二七年頃福田幸市に一万五〇〇〇円を支払つて本件宅地の占有の移転を受け、本件地蔵堂を建立した。しかし、被控訴人はこれを承諾したことはなかつた。以上の事実を認めることができる。そうすると、福田幸市は、被控訴人に対抗できる権原なく本件宅地を占有していた不法行為者というべきであつて、事務管理人又は準事務管理人であるということはできないから、控訴人が福田幸市から本件宅地の占有の移転を受けても、その占有を以て被控訴人に対抗することができないことは明らかであるから、控訴人渡辺の右主張は採用できない。

そうすると、控訴人渡辺は、本件宅地の所有者である被控訴人に対し、主文第四項記載の建物を収去し右宅地を明け渡す義務があることは勿論、右建物を少くとも昭和二八年一月一日以前から占有することにより右宅地に対する被控訴人の使用収益を妨げ、被控訴人に対し賃料相当の損害を被らせていることが明らかであるから、その損害を賠償する義務がある。そして、昭和二八年一月一日以降の本件宅地の賃料相当額が一坪につき一ケ月五〇円であることは、被控訴人と控訴人渡辺との間に争がないから、控訴人渡辺は、被控訴人に対し、昭和二八年一月一日から本件宅地明渡すみに至るまで右割合による損害金の支払義務がある。

控訴人渡辺は、本件が職権で調停に付せられる以前に当事者双方の代理人間において、本件宅地を一坪につき九〇〇〇円の代金で控訴人渡辺が買い受け、被控訴人は延滞賃料を免除する旨の約定で示談が成立したから、本訴請求は失当であると主張するが、右主張のような示談がなされたことを認めるに足る証拠はないから、右主張は採用できない。

控訴人渡辺は、本訴請求は、民法第一条に定める信義誠実の原則に反し著しい権利の濫用であるから許さるべきでないと主張するが、既に説明したところにより明らかなように、控訴人渡辺が被控訴人に対抗する権原なく本件宅地を占有しているので、被控訴人が所有権に基き本件建物の収去と右宅地の明渡及び損害金の支払を求めるのであるから、控訴人渡辺が右宅地を占有する目的がその主張のとおりであるとしても、本訴請求は、当然の権利の行使であつて権利の濫用であるということできない。右主張は採用することができない。

被控訴人の控訴人講に対する請求につき、以上と異る原判決の部分は失当であつて、控訴人講の本件控訴は理由があるから、民訴法第三八六条により原判決中控訴人講に関する部分を取り消し、被控訴人の控訴人講に対する訴を却下することとし、被控訴人の控訴人渡辺に対する昭和二八年一月一日から宅地明渡すみまで一坪につき一ケ月五〇円の割合による損害金の請求を認容した原判決は正当であつて、同控訴人の控訴は理由がないが、被控訴人は当審で明渡を求める宅地の坪数を減縮したので、原判決中同控訴人に関する部分をこの判決主文第五ないし第七項のとおり変更することとし、なお被控訴人が当審において附帯控訴により請求を拡張し控訴人渡辺に対し本件建物の収去と本件宅地の明渡を求める請求を正当として認容し、訴訟費用の負担及び仮執行の宣言につき、同法第八九条第九六条第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 熊野啓五郎 裁判官 岡野幸之助 裁判官 山内敏彦)

測量図<省略>

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